東京地方裁判所 昭和40年(レ)306号 判決 1966年10月04日
控訴人 山岡降一
右訴訟代理人弁護士 手代木隆吉
被控訴人 清水東一郎こと 清水東一
右訴訟代理人弁護士 佐藤操
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
被控訴代理人は請求の原因及び抗弁に対する答弁として、「被控訴人は訴外三本工業株式会社の依頼により、昭和三四年一二月二四日控訴人に対し、右訴外会社の振出にかかる金額一二五、〇〇〇円、支払期日昭和三五年三月八日、支払銀行常盤相互銀行なる約束手形一通を割引依頼のため交付した。控訴人は、右手形の交付を受けてから二、三日後に、受任の趣旨に基き第三者から右手形の割引を受け金一〇万円を交付した。そして控訴人は内金七万五〇〇〇円を被控訴人に交付したが、残金二五、〇〇〇円は、再三請求してもこれを支払わない。よって、被控訴人は控訴人に対し、右割引受領金の残額金二九、〇〇〇円と、これに対し、被控訴人が控訴人に対し右金員の支払を請求しても支払がないためやむをえず、割引依頼人である前記訴外会社に対し、一時手形金額一二五、〇〇〇円の立替支払をなした日の翌日である昭和三五年二月一日以降完済まで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ。控訴人の抗弁事実は、いずれも否認する。」と述べ、再抗弁として<省略(理由参照)>控訴代理人は「請求原因事実は全て認める。」と述べ、抗弁及び再抗弁に対する答弁として<省略(理由参照)>。
理由
一、請求原因事実については争いがないので、控訴人主張の費用償還請求権の存否につき判断すると、控訴人本人は、本件手形の割引を受ける必要上、自から裏書人となったが、これが不渡となったため割引人である訴外河野某の求めにより、金五万円を支払ったから本件割引受領金の支払に応じられない旨供述するけれども、成立に争いのない甲第三号証及び原審と当審とにおける被控訴人本人尋問の結果によれば、本件手形の支払期日の約一年後である昭和三六年二月三日頃、控訴人は被控訴人からの本件手形割引金の請求に対しその支払の猶予を求めた事実を認めることができ、これによれば控訴人の右の供述はにわかに措信し難く、他に控訴人主張の事実を認めるに足る証拠はない。
二、次に、控訴人主張の相殺の抗弁及び被控訴人主張の再抗弁につき判断するに<省略>によれば、昭和三三年控訴人は同人が関係していた鉱山会社の設備資金の調達のため、被控訴人に対し運動資金として金三〇万円を交付して融資の斡旋方を依頼したこと。そこで被控訴人は訴外田中浩を通じて金融ブローカーであった小野寺こと訴外成田某に対し、融資銀行に対する導入預金の斡旋方を依頼して、その運動資金のうち金二〇万円を交付し、さらに右田中に対し謝礼として金二万円を交付する等して、資金調達の斡旋方に努力したものの、右の導入預金の斡旋が成功せず、結局融資の見込もなくなってしまったこと。そのため、被控訴人は控訴人から運動費として渡された金三〇万円の返済方を要求され、両者間で交渉した結果、そのうち金一〇万円は被控訴人が返還することとし、金額二〇万円は訴外成田に渡されてあることから、控訴人がその返還方の交渉にあたることとして話合いがつき、控訴人は訴外成田を告訴する等の手段をとったこと。被控訴人は右約旨に基づき、昭和三四年五月一八日から同年八月一九日迄に数回に分割して金一〇万円の全額を弁済したこと。以上の事実を認めることができ、控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信することができない。ところで、控訴人の主張する反対債権は、融資の斡旋方を依頼して交付されたいわゆる運動後の返還請求権であるところ、右認定した事実によれば被控訴人は受領した運動費金三〇万円の内金二〇万円を、その依頼の趣旨に添い支出したことが認められるのであるから、たとえ、その斡旋が不成功に終った場合に於ても、特約なきかぎりこれを依頼人たる控訴人に返還する義務はないものといわねばならない。そして、右運動費の残額金一〇万円については、被控訴人においてその返還を約し、その全額の支払を完了したこと右認定したとおりであるから、結局被控訴人は、控訴人主張の反対債権の支払義務を負担すべき理由はない。
三、してみると、控訴人は被控訴人に対し、控訴人が第三者より受領した本件手形の割引受領金の残額金二五、〇〇〇円の支払義務があることが明らかであり、さらに被控訴人が本件手形金額を訴外三本工業株式会社に立替払した昭和三五年二月一日前から控訴人に対し右割引受領金の支払を催告していたことは、控訴人の認めるところであるから、控訴人は被控訴人に対し、右割引受領金二五、〇〇〇円につき昭和三五年二月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
四、よって被控訴人の請求を認容した原判決は正当であるから民事訴訟法第三八四条を適用し本件控訴はこれを棄却することとし、<以下省略>。